※下記記事は、2010年頃に書いたものを前の方へ持ってきて載せなおしています。
◎ ◎ ◎ 「シュタイナー教育」を捉えなおす ◎ ◎ ◎ 今までの誤解 「シュタイナー幼児教育」の勉強を始めてから15年、園を始めてから11年経とうとしています。学べば学ぶほどこの教育について一言で言えなくなります。『にじいろのたね』Vol.15でも紹介した冊子『シュタイナー幼稚園について』のまえがきにある言葉「<シュタイナー教育>とは今までまるで一つの型があるかのような誤解を受けてきた」からです。シュタイナーさんの言葉を借りれば、子どもの教育とはとりもなおさず大人の「自己教育」であり「認識の小径(こみち)」であるのです。 イギリスで勉強中、先生から「シュタイナー幼稚園の数だけ教師のあり方があり、オイリュトミストの数だけオイリュトミーのあり方がある」というようなことを言われました。特にイギリスが個人主義の国であるから、かつてのドイツのように全体主義に流れないようにブレーキをかける言葉だったのかもしれませんし、「外にある形でなく、自分の中から湧き出てくることに耳を澄ます」ことを大事にさせよう、という訓えだったのかもしれません。 一昨年でしたか、日本シュタイナー幼児教育協会の入間カイ氏の勉強会で、確か「シュタイナー幼稚園を始めるとしたら、最初に何が必要だと思いますか」「これがないとシュタイナー教育ではないというものは何ですか」というワークショップを行い、参加者が思い思いに項目を挙げて、黒板に列挙していくという作業をしました。ピンクのカーテン、ライアー、5度の音階、シュトックマーの蜜蝋クレヨン、目のないお人形、羊毛、おはなし・・・と挙げていった後で、「では、無人島で始めるとして、どうしてもこれ!というのは何ですか」ということになりました。するとどんどん具体的な ' もの ' が消えていったのです。あまり正確には覚えていないのですが、あとに残ったのは、確か、「仕事をする大人の姿」「大人の覆い」「おはなし」「うた」「周りの自然」・・・それらのことだったと記憶しています。 考えてみれば、シュタイナーさんが、シュトックマーのクレヨンやピンクのカーテンを使いなさい、と指示したわけではなく、当時の教師たちから、「よりよい教育とは何か」と訊ねられて答えてきた内容や講演の中で語った内容を、「現場の教師がその後、具体的な形にしていった」のだと思うのです。ということは、「よりよい教育とは何か」と「現場の教師がその後具体的な形にしていく」ことが、時代が変わっても国が変わっても繰り返し行われ、そのこと自体がよりよい教育を求めるというプロセスであり、そのプロセスこそが「シュタイナー教育」を「シュタイナー教育たるもの」にしているのではないか、と悟ってきました。 私自身、園とともに11年歩いてきたその小径の途中では、自分自身の未熟さが「シュタイナー教育」を実現するのを難しくしている、と自分を責めたり、苦しくなったりしていました。でも、それさえもプロセス。プロセスそのものが「シュタイナー教育たるもの」であるならば、型を作ってそこに入ろうとしたり、型そのものを作るのをやめればいいのだと気づいてきました。前にもこの冊子で書きましたが、古武道などがそうであるように、何事もお稽古には「型」があります。でも型は自分自身の骨格を矯正するのには役だちますが、中からその骨格に栄養を与えて、充分な内容物を蓄えるのは他ならぬ自分自身の身体であり内面です。一時的に型に入れるというか、押さえどころを心得て、あらましを捉えることができたなら、あとはもう、それを取っ払って自然に任せて、たとえ歪(いびつ)でもその人独特の体の線が出てきて有機的(オーガニック)なラインが浮かび上がってくるのではないか?と思うようになりました。 さつまいも掘り遠足で収穫したさつまいも(かごの中)のつるでリースを作っているところ ゼロから始める ぎんのいずみでも、この、まるであるかのように捉えられた「型」に苦しんだママたちも少なからずいたのではないでしょうか?以前、「これこれをガイドラインとして出してほしい」「何々のリストをつくってほしい」と父母会の方から求められました。私はその度に躊躇していました。私の事務能力が不十分でそれができない。と悩んだこともありました。なぜできなかったのか解ってきました。それをやった途端、それが単なる「型」になってしまうと、本能的に感じていたからです。ガイドラインやリストがあるとどういうことが起きるでしょうか?園に入ったばかりで不安と期待でいっぱいの父母の方にとって、そのようなガイドラインやリストがあることは一方では安心かもしれません。でも、もう一方では、それさえやっていればいいということになって自分で感じたり、考えたりしなくなるのではないでしょうか? シュタイナー教育は<感覚>教育である、という考え方もあります。であるならば、その感覚を子どもと同じに生き生きとさせるためには、まず私たち大人が<感覚>を磨く必要があるのではないでしょうか? リストで出す代わりに一人ひとりの子どもに現れている現象で、「ここはこうした方がいいですよ」「~~をこうしてみてください」という風に個別に言葉をかけてきました。そこでも問題は起きました。小さい頃からの点数評価、減点主義など…外からの評価や横並びの自分の捉え方で育ってきたママ世代は、どうしてもお行儀がよすぎて、こちらが子どものため、と思ってアドバイスしたことも、それをして来なかった自分が責められたと感じてしまうようでした。 <これが自分>という、自分のプロになる 入間カイ氏が「無人島で」と言った言葉は奇しくも私が、12年前に、子ども園を始めようとしている時、当時のママたちにしきりに唱えていた言葉です。より良い教育をしたいと思うと、そう思うあまりにあれもこれもとどんどん項目が増えていってしまいます。そして自分で増やした項目に見合わないことが出てきた場合自分を責めてしまいます。でも、冷静によーく考えてみると、この物質主義、物余り時代、飽和状態の現代社会では見えにくくなっているだけで、生きていくために必要なものって、意外に少なくてすみます。それで「無人島」という発想なのです。イメージトレーニングしてみましょう。 「何もない無人島にいます。まず自分が生きるために何が必要でしょうか?」それを探るところから始めてみて、過去に人類はどうしていたのか、未来に向けて我々は人類としてどういう暮らし方を求めればいいのか?そしてできるところから今の生活に具体的に取り入れて行く。そのプロセスそのものが(自己)教育であり、子どもへの教育にも直結するのではないでしょうか? 人が自分の内面のバランスを崩すのは、自身の知・情・意のバランスが悪くなった時です。(「智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ」 夏目漱石『草枕』より)。 すでにある自分の中の本質に目を向けてみましょう。料理、手仕事、庭仕事、木工仕事、事務処理能力、スポーツ、楽器演奏、歌、お話、文章、人の悩みの聞き役、明るい雰囲気を振りまく、そこにいるだけで柔らかい佇まい、世話好き・・・などなど、人には誰にでも「これが自分」「このことをやっている時の自分が好き」「生きている喜びはこれ」ということがあると思います。そのことを育てることがまたもう一つの自己教育。そのため、たまにシュタイナーさんの言葉に立ち返り、自分の中に真・善・美を増やしていくことができるかもしれません。 自己教育で少しでも成長した自分に自信が持てたら、子どもにはイニシャティブをとって「背中をみて、だまってついて来い」という態度で対しましょう。(「子供より親が大事、と思いたい」 太宰治『桜桃』より)。 「教育」という言葉はやめて、「学び」にしましょう。美しくて、楽しい「学び」。その歓びに満ちて暮らしていけたなら、子どもはその覆いの中で放牧するだけでいいでしょう。 山本ひさの(ぎんのいずみ子ども園 代表)
by nijiiro-no-tane
| 2017-02-01 11:10
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ぎんのいずみ子ども園
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